
テーブルによだれをこぼしてまで勝ち取った
あるとき黒犬ルビーは喜びのあまり 椿に鼻を突っ込みました。 花の芳しい香りを嗅げるだけで満足でしたが、 それに味があることに気づいたのです。
それは生きていた頃に食べていた新鮮なきゅうりや、 ガリガリ削ってこそぎ取ったとうもろこしや、 テーブルによだれをこぼしてまで勝ち取った 肉まんの味でした。

ルビーは飛び跳ね、駆け回ります。 何が嬉しいのかわかっていませんでしたが、 そうしているとやがて尻尾が椿の花になりました。
桜でもパンジーでも良かったのに、 そこには椿の花がありました。 ルビーは自分の名前が「赤」いこと、 椿の花が「赤」いことがなんとなくわかっていました。
そうして、自分の名前を授けてくれた寡黙な父親を 思い出していました。そしてまた意味もわからず 嬉しくなったのです。
[描画時間]1h ※2480×1748px 300dpi