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Flower animals #3 記憶がかゆいだなんて

2022年5月29日


記憶がかゆいだなんて

トカゲのラファエルは体格こそ大きいものの、
生まれて数年経っただけの幼い少年でした。
彼は興味がないことにはとことん忘れっぽく、
周囲から「お前っていつも都合が悪いこと忘れるよな〜」
などと指摘される度に苛立ちました。
メモしても、カレンダーに書いても、他人から言われても
忘れるのです。もはや一人の力ではどうしようもないと
流れで「記憶の雑草」を植えました。
頭にタネをふりかけるだけで記憶が定着する
夢の雑草だと聞いていたからです。
確かに記憶がはっきりするようになりました。
友達との約束も、勉強の内容も、
誰かがした噂話もすべて。
雑草の仕組みはよくわかりません。
しかし、雑音を拾って音で成長する草だと聞きました。
音で成長するほど、根っこもしっかりして頭に記憶を
定着させるのでした。
ただ、ある時を境に突然頭の中がかゆくなったのです。
音が聞こえるたび猛烈なかゆみを感じてどうしようも
なくなります。かくと気持ち良くなりますが一瞬です。
物覚えどころじゃありません。
あらゆる場所で、時間で、かいて、かいて、
かきまくってはむしり捲り‥
地獄のような最悪さでした。
草を引っこ抜くと激痛が走ります。
ラファエルは叫んでは泣いてを繰り返しました。
そしてようやく悟ったのです。草は成長しきり、
タネを撒くようになったのだと。
もう頭がぼうっとしてきました。
完全に草が抜け切るとラファエルは
自分が何をしていたのかわからなくなり、
散らばったタネを呆然と見つめていました。
そしてまた物覚えが悪くなり、
周囲に揶揄われるようになりました。

[描画時間]3h ※2480×1748px 300dpi

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